立正安国論の十問九答に思うこと

立正安国論は内容もさることながら、十問九答の問答形式という構成から何が学べるでしょうか。

日蓮大聖人の仏法は問答、即ち対話の仏法であるということ。

仏法には仏法で応答するということ。

仏法に世法・国法で対するのは日蓮仏法の心に非ずということ。

仏法者はどこまでも他者を尊重して、包容する、慈しむ人である。

対話の中に、気づきと目覚めの縁があるということ。

法に対しては峻厳に、人に対しては母のような愛情で。

共々に成長し、心を耕し開拓する仏法であるということ。

喜びを共有する仏法であるということ。

拝するほどに、思いは尽きませんね。

◇旅客来りて嘆いて曰く近年より近日に至るまで天変地夭飢饉疫癘遍く天下に満ち広く地上に迸る~此の世早く衰え其の法何ぞ廃れたる是れ何なる禍に依り是れ何なる誤りに由るや。

〇主人の曰く独り此の事を愁いて胸臆に憤悱す客来つて共に嘆く屡談話を致さん

◇客の曰く天下の災国中の難余独り嘆くのみに非ず衆皆悲む、今蘭室に入つて初めて芳詞を承るに~其の証拠を聞かん。

〇主人の曰く其の文繁多にして其の証弘博なり。

◇客色を作して曰く~若し其の証有らば委しく其の故を聞かん。

〇主人喩して曰く

◇客猶憤りて曰く~何ぞ妄言を吐いて強ちに誹謗を成し誰人を以て悪比丘と謂うや委細に聞かんと欲す。

〇主人の曰く~如かず彼の万祈を修せんよりは此の一凶を禁ぜんには。

◇客殊に色を作して曰く~昔より今に至るまで此くの如き悪言未だ見ず惶る可く慎む可し、罪業至つて重し科条争か遁れん対座猶以て恐れ有り杖に携われて則ち帰らんと欲す。

〇主人咲み止めて曰く辛きことを蓼の葉に習い臭きことを溷厠に忘る善言を聞いて悪言と思い謗者を指して聖人と謂い正師を疑つて悪侶に擬す、其の迷誠に深く其の罪浅からず、事の起りを聞け委しく其の趣を談ぜん、~汝疑うこと莫かれ汝怪むこと莫かれ、唯須く凶を捨てて善に帰し源を塞ぎ根を截べし。

◇客聊か和ぎて日く未だ淵底を究めざるに数ば其の趣を知る但し華洛より柳営に至るまで釈門に枢楗在り仏家に棟梁在り、然るに未だ勘状を進らせず上奏に及ばず汝賎身を以て輙く莠言を吐く其の義余り有り其の理謂れ無し。

〇主人の曰く、予少量為りと雖も忝くも大乗を学す蒼蝿驥尾に附して万里を渡り碧蘿松頭に懸りて千尋を延ぶ、弟子一仏の子と生れて諸経の王に事う、何ぞ仏法の衰微を見て心情の哀惜を起さざらんや。

◇客則ち和ぎて曰く、経を下し僧を謗ずること一人には論じ難し、然れども~経を下し僧を謗ずること一人には論じ難し、然れども

〇主人の日く、余は是れ頑愚にして敢て賢を存せず唯経文に就いて聊か所存を述べん、抑も治術の旨内外の間其の文幾多ぞや具に挙ぐ可きこと難し、但し仏道に入つて数ば愚案を廻すに謗法の人を禁めて正道の侶を重んぜば国中安穏にして天下泰平ならん。~嗟呼悲しいかな、如来誠諦の禁言に背くこと、哀なるかな愚侶迷惑の・語に随うこと、早く天下の静謐を思わば須く国中の謗法を断つべし。

◇客の日く、若し謗法の輩を断じ若し仏禁の違を絶せんには彼の経文の如く斬罪に行う可きか、若し然らば殺害相加つて罪業何んが為んや。~謗法を誡むるには似たれども既に禁言を破る此の事信じ難し如何が意得んや。

〇主人の云く、客明に経文を見て猶斯の言を成す心の及ばざるか理の通ぜざるか、全く仏子を禁むるには非ず唯偏に謗法を悪むなり、夫れ釈迦の以前仏教は其の罪を斬ると雖も能忍の以後経説は則ち其の施を止む、然れば則ち四海万邦一切の四衆其の悪に施さず皆此の善に帰せば何なる難か並び起り何なる災か競い来らん。

◇客則ち席を避け襟を刷いて日く、仏教斯く区にして旨趣窮め難く不審多端にして理非明ならず、~早く一闡提の施を止め永く衆僧尼の供を致し仏海の白浪を収め法山の緑林を截らば世は羲農の世と成り国は唐虞の国と為らん、然して後法水の浅深を斟酌し仏家の棟梁を崇重せん。

〇主人悦んで日く、鳩化して鷹と為り雀変じて蛤と為る、悦しきかな汝蘭室の友に交りて麻畝の性と成る、誠に其の難を顧みて専ら此の言を信ぜば風和らぎ浪静かにして不日に豊年ならん、但し人の心は時に随つて移り物の性は境に依つて改まる~を失い家を滅せば何れの所にか世を遁れん汝須く一身の安堵を思わば先ず四表の静謐を祷らん者か、~汝早く信仰の寸心を改めて速に実乗の一善に帰せよ、然れば則ち三界は皆仏国なり仏国其れ衰んや十方は悉く宝土なり宝土何ぞ壊れんや、国に衰微無く土に破壊無んば身は是れ安全心は是れ禅定ならん、此の詞此の言信ず可く崇む可し。

◇客の曰く、今生後生誰か慎まざらん誰か和わざらん、此の経文を披いて具に仏語を承るに誹法の科至つて重く毀法の罪誠に深し、我一仏を信じて諸仏を抛ち三部経を仰いで諸経を閣きしは、是れ私曲の思に非ず則ち先達の詞に随いしなり、十方の諸人も亦復是くの如くなるべし、今の世には性心を労し来生には阿鼻に堕せんこと文明かに理詳かなり疑う可からず、弥よ貴公の慈誨を仰ぎ益愚客の癡心を開けり、速に対治を回して早く泰平を致し先ず生前を安じて更に没後を扶けん、唯我が信ずるのみに非ず又他の誤りをも誡めんのみ。

                                   林 信男